負けず嫌いのキス


 ――イライラするのだ。


 ゴドーの執務室を訪れた御剣は、落ち着かない様子で腕を組んだ。
 御剣がこの部屋に来ること自体がかなり珍しいことで、慣れない部屋と、 自分がこれからしなければならないことを思うと、御剣は今すぐここから出て行きたい気持ちになった。
 ただでさえ落ち着かない場所であるのに、さらにいつもとは部屋の様子が違う。
 奥にある机のさらに後ろに、きれいに包装された箱やら袋やらがいくつも無造作に置かれているのだ。
 御剣としては認めたくないことではあるが、ゴドーはかなり女性に騒がれるタチらしい。
 いかついマスクも、前科ですら、彼女たちには気にならないようで、誕生日という男に近づくにはもってこいのこの日に、 競ってプレゼントを渡したのだろうことは容易に想像がついた。
 それ自体は、どうでもいい。
 いや、気持ちの上ではどうでもいいこともないのだけれど、今の、ゴドーの行動を見れば、 その他大勢に向ける感情はとくに湧いてこなかった。
「おい、神乃木」
「どうした、ボウヤ?」
 応えるゴドーは、けれど御剣に視線を向けるでもなく、手の中の一枚の紙を見つめている。
「……誰からだ」
 御剣がそう言うと、ゴドーはやっと顔をあげて御剣を見た。
 その口許に浮かんでいる、いかにも御剣をからかう気まんまんというような笑みに、舌打ちしたい気分だ。
「クッ……気になるかい?」
「……別に」
「見たいなら、見せてやるぜ?」
「…………別にっ!」
「そうかい? じゃあ、一人で読ませてもらうぜ」
「…………」
 また手元の手紙に視線を戻したゴドーを御剣は苦々しく見つめる。
 わざとやっているのは、分かっているのだ。楽しんでいるのも。

(イライラするのだ……!)

「クッ……ずいぶん可愛いこと言ってくれるコネコちゃんだぜ」
 読み終わったらしい手紙を封筒へとしまいながら、ゴドーが含みのある笑みを浮かべる。

(分かっているのだ、思うツボだということは!)
 御剣は机に座っているゴドーに大股で近寄ると、その手にある手紙をひったくり、 後ろのプレゼントの山へと放り投げた。
 それを横目で見ながら、大して動じたふうでもない男を出来る限り強く睨みつけて、その顔を両手で掴むと、 御剣はほとんどぶつける勢いでその唇にキスをした。
 口付けている相手の喉が笑っているのは、御剣の行動が男の気に召したということだろう。
 まったく腹立たしいことこの上ない。
 そのまま腰を引き寄せようと男の手が伸びてくるが、御剣は最後の矜持でその手を振りほどいた。
「約束は、果たしたからな!」
 それ以上男の顔を見ているのは癪だったので、御剣は踵を返すと急ぎ足でその部屋を出た。
 ククっと笑う男の気配を背後に感じて、また怒りが湧いてきたけれど、 それをまたぶつけるほどに我を忘れているわけでもなかった。

  (誕生日なんて、この世から無くなればいいのだ!)
 自分の執務室へ向かって歩きながら、御剣は忌々しげに唇を拭った。
 聞かなければ良かったのだ。誕生日に何が欲しいかなんて。
 少し前の自分の誕生日に、ゴドーに祝ってもらった事をなかったことにできればよかったけれど。
 礼を欠くことをよしとしない自分の性格に、今回ばかりは嫌気が差した。

 やられてばかりでは気が収まらない。
 きっとゴドーは御剣の機嫌を取りにやってくるだろうから、しばらく無視を決め込んで仕返しをしてやろう。
 きっとそれすらもあの男は楽しむのだろうということも、分かっていたけれど。

(今夜はキスもその先も、おあずけにしてやるのだ!)


end // reset
2008.11.3 up
坂田さまの誕生日祝いに押し付けたシロモノ。