ヴェクサシオン**R18


「やぁ、御剣ちゃん。無罪判決おめでとう」
 部屋に入るなり楽しげに声を掛けてくる男は、 御剣にとって出来ることならばあまり関わらないでおきたい人間の一人だったが、 警察局長という立場を思えばそうも行かないのが事実だ。
「それとも、ご愁傷様、とでも言ったほうがよかったかな?」
 反応できずにいた御剣に、今にも笑い出しそうなほどの上機嫌な声が続けて言葉を紡ぐ。
 その話題を続ける気には、到底なれなかった。
「……何か用事があるのでは?」
「用がなきゃ呼び出しちゃいけないのかな?」
「私も暇ではないので」
 視線を落として御剣が言うと、男は「ふうん」とつまらなそうに呟く。
 ゆったりとした動作で立ち上がった男は、御剣の目の前まで来ると、ニヤリと口元だけを吊り上げて笑った。
 その嫌な笑顔に背筋が粟立つのは、危険を知らせるシグナルに他ならない。
「ねぇ、御剣ちゃん。そんな生意気な口、今でもきけると思ってるの?」
 不穏な気配に御剣はとっさに後ずさろうとするが、男が腕を掴むほうが速かった。
 机に勢い良く身体を倒されて、叩きつけられた痛みで背中が疎む。
 御剣が顔を歪めても、男は気にした様子もなく底の知れない笑顔のまま口を開いた。
「狩魔がいた頃と同じだと思わないほうがいいよ。いまやキミの検事生命はあってないようなモノなんだからサ」
「どういう、意味だ」
「本当にわからないの? キミはいくつも爆弾を抱えてる。ボクにはそれを爆発させることぐらい簡単だって話だよ」

――たとえばキミの『黒い噂』とかね。

 御剣が反論しようと口を開くが、言葉にする前に男によって塞がれてしまう。
 無理やり押し入ってきた舌に吐き気が込み上げるが、鼻を押さえられてしまえば口をあけるしかない。
 強引な手付きで上着とベストを肌蹴させられる。
 突然のことに半ば呆然としていた御剣が慌てて男の胸を押し返すが、良く鍛えられた厚い胸はびくともしなかった。

 男の言葉を信じるならば、御剣は今まで師である狩魔に庇われていたということになる。
 狩魔の性格をよく知っている御剣にとって、にわかには信じがたいことではあったが、狩魔がいなくなってすぐに、 この男が動き出したということは、あながち嘘でもないのかもしれないとも思った。

「ねぇ、御剣ちゃん。ボクを楽しませてよ」
 シャツの下から入り込んだ手が御剣の肌を滑る。
 革手袋に包まれた指先はひんやりと冷たく、御剣はビクリと身を疎ませた。
「や……やめ、ろ」
「そうしたら、今度はボクが、守ってあげるよ」
 円を描くように胸を撫でながら、男が御剣の耳元で囁いた。
 そのまま耳を舐められて、御剣は必死に首を振った。
 この男がどう思っているか知らないが、御剣は同性に抱かれたことなど一度もなかった。
 だからといってここまでされて男が求めているものがなんなのか分からない程に無知でもない。
 例え脅されても、このまま身を任せることなど到底できなかった。
「はなせっ!」
 思いきり殴ろうと振り上げた腕は男に届く前に簡単に掴まれてしまった。
 ぎりりと掴んだ腕を締めあげられて、痛みに唇を噛む。
「残念だなぁ」
 言葉とは裏腹に、楽しくて仕方がないというような笑顔で、男は御剣の身体を持ち上げると、力任せに机に打ち付けた。
 あまりの衝撃に一瞬息が止まる。
 痛みに動けないでいる御剣を笑顔で見下ろしながらネクタイを外すと、男はそのまま御剣の両手を後ろ手に縛り上げた。

「本当は優しくしてあげたかったんだけどサ」
 御剣ちゃんが可愛くないからいけないんだよ。などと嘯いて、男は御剣の中心に膝を押し付けた。
「ひぁっ……!」
 強い刺激に思わず漏れてしまった声を悔やむように御剣は唇を強く噛みしめるが、男がそれを聞き逃すはずもなかった。
 すぐに御剣のボトムへと手を伸ばして、前を晒してしまう。
「イイねぇ、御剣ちゃん。その可愛い声、もっと聞かせてよ」
「……っ!」
 乱暴な刺激から一転、大きな手で中心を包むように撫でられて、 嫌でも昂ぶる性感にこぼれそうになる声を御剣は必死で堪えた。
 革手袋をしたままの手で扱かれるのが、素手よりも強い摩擦感を生んでいる。
「コエ、我慢しないでよ」
「い……イヤ、だっ」
「まだ分からないかなぁ? もっと鳴けって言ってるんだよ」
「……っあぁぁ!」
 下肢に感じる生温かく湿った感触に、御剣は閉じていた目を見開いた。
 御剣の足の間に顔を埋める男を、信じられない思いで見つめる。
「あっ……局長、やめ……やぁっ」
「そうそう、イイ子だね。もっとキモチヨクなっていいんだよ」
 男は御剣のモノを口に含んだままそう言うと、先端を強く吸う。
 ビクンと揺れる腰を嗤うように撫でられて、今度はゆっくりと根元から舐めあげられた。
 強い刺激と緩やかな刺激を交互に繰り返されて、御剣は意思に反してどんどん熱くなる身体をもてあました。
 男によってたかめられた中心は、けれどもっと決定的な刺激がなければ達することもできない。
「んっ……や、もう……」
「もう、なに? 御剣ちゃん」
 舌先で先端をチロチロと舐めながら、男はにっこりと笑う。
 焦らされた御剣の腰は、いまや快感を乞うように揺れていて、 何を求めているかなど聞かなくても一目瞭然だというのに。
「ちゃんと言わなきゃ、いつまでもこのままだよ」
 手で根元から先端までをゆっくりと扱きながら、ふぅっと息を吹きかける。
 その曖昧な快感が毒にしかならないのを知っていて、男は楽しそうに口元を歪めた。
「ひっ……い、いやぁ……」
「あはは、ヤラしい顔だね。ホラ、早くおねだりしてよ」

 酷い屈辱だった。
 男の言いなりになどなりたくないのに、焦らされるほどに、 自分でも聞いたことのないような甘い声が勝手に唇からこぼれ落ちてていく。
 自分の思い通りにならない身体も、男が吐く御剣を貶める言葉も、何もかも気持ち悪くて堪らなくて、 それでも男に縋るしかない現実に目の前が真っ暗になった気がした。

「は、ぁ……も……イきた、い……!」
「うーん、『お願い、イかせて』がベストだったんだけどね。 ま、ゆらゆら揺れてる腰が色っぽいから合格にしてあげよっか」
 言い終わらないうちに、男は両手の手袋を外して御剣のそれに指を絡める。
 その手の意外なほどの熱さに、御剣はビクリと背を仰け反らせた。もっと、冷たい手をしているかと思っていたのに。
「はっ……あああッ!」
 根元を乱暴に扱かれ、先端を強く吸い上げられて、御剣は男の口内に吐精した。
 快感に、気が遠くなりそうだった。
 見せつけるように男が御剣の精液をドロリとその手に吐き出しても、それを後ろの穴に塗りこめられても、 中を掻きまわすように広げられても、自分の口からこぼれる声すら、まるで他人事のようにリアリティが無かった。
 やがて硬く張りつめた男のモノが押し入ってきても、御剣は意味を成さない鳴き声をあげるばかりだった。


  *  *  *


 たすけて。

 さんざ嬲られて、意識を飛ばした御剣を横たえたソファから聴こえた小さな声を、巌徒は聞き逃さなかった。
 いたぶられている時には決して口にしなかった言葉を、 意識のない時に零してしまうそのツメの甘さに笑いがこみあげる。
 今更、いったい誰に助けを求めるというのか。

「キミが救われることはないんだよ。だってホラ、御剣ちゃんが信じた神様は偽物だったんだから、ね」

 ほがらか、とさえ言えそうな顔で笑って、巌徒は御剣の頬を伝う涙を舐めとった。


end // reset
2009.1.12 up
7,000番を踏んで頂いたカンロさまのリクエストは、
『鬼畜なガンミツかゴドミツ』でした!
うちのヘタレゴドさんには鬼畜は荷が重いということで、局長に出て頂きました。
珍しく御剣が可哀想なまま終わってますが、 きっと成歩堂が助けてくれるでしょう!(逃)
題名はサティの曲名から。 フランス語で「嫌がらせ」とか「いじめ」みたいな意味らしいです。
こんなモノで恐縮ですが、カンロさま、リクエストありがとうございましたー!!