Pocky!



 もともと無理の多い想いだ。そんなことは嫌というほど分かっていたから、初めは伝えるつもりなどなかった。 だから体の中心から湧き上がってくる感情が出口を求めて駆け巡るのを、 強く目を瞑り切り揃えた爪が掌に痕を残すほどに拳を握って、そうして何度もやり過ごしていた。
 けれど、心にも容量というものがあるのだろうか。なんのことはない、ふと見た御剣の横顔がとても綺麗だと、そんな今まで何度となく感じたことが、 そのときだけ強すぎる衝動になった。
 想いを告げた自分の顔は、あるいは御剣の憐憫を誘うような追い詰められたものだったのかもしれない。 そうでなければ、戸惑いに瞳を揺らし明らかな困惑の表情を浮かべた御剣が、それでも否定の言葉を口にせずに無理に微笑んだりはしなかっただろう。
 その後、何度顔を合わせても変わらない御剣の困ったような笑顔に、狼を窺うかのような表情に、僅かずつ胸を痛めながらも、忘れてくれとはどうしても 言えなかった。それでも自分を拒絶しようとはしない御剣に甘えていた自覚は、ある。
 そんな、まるで執行猶予中のような状態がしばらく続いていたから、食事に行こうと誘った狼に御剣が躊躇いがちに自宅に来ないかと言ってきたときには、 何を言われたのか一瞬分からなくなるほどに驚いた。素直に嬉しく思うのと、どういうことかと訝る気持ちが半々で、つまるところ狼は緊張していたのだ。
 そのせいか初訪問の御剣の家で、出来あいの惣菜を肴にいくら杯を重ねても、殆ど酔うこともなく。

「ジャパニーズゲーム?」

 そんな状態だったから、御剣が棒状のプレッツェルにチョコレートでコーティングしたような形状の菓子(ポッキーという名らしい) を差し出しながら言った言葉にも、狼は咄嗟に同じ言葉をオウムのように繰り返すことしかできなかった。
 狼に不思議そうに問い返された御剣の顔はなぜか酒のせいとも思えないほどに赤い。ゲームをするのになぜ赤面するのか。 それ以前に、そもそも御剣がゲームをしたいなどと言い出すこと自体が珍しくて、狼は頭の上にクエスチョンマークをいくつも飛ばした。 まぁ、子供向けのヒーローに凝っていたりするくらいだから、ゲーム好きな一面があってもおかしくはないのかもしれないが。
「この両端からそれぞれ食べていって、より多く食べた方が勝ちなのだ」
 わかるだろうか? と狼を覗う御剣はどこか必死で、断れない空気が漂っている。 狼は少し怪しがりながらも御剣の言葉に頷いた。どうやら勝ち負けがあるようだし、ただのゲームといえど御剣相手に簡単に負けるわけにはいかない。
「あぁ、なんとなくだが分かったぜ」
「よし。ではあなたはこちら側を咥えたまえ」
 そうして差し出されたポッキーの端を、噛み切らないように注意しながら咥えると、反対側を同じように御剣が咥える。
(あれ……これ、近くねぇ?)
 ポッキーを見て、ゲームの説明を聞いたときに気付きそうなものだが、 自分の緊張と御剣の様子がおかしいことに気を取られていた狼はその時になって初めてそんなことを思った。 一気に動転しそうな気持ちを落ちつけて、間近に見える御剣の瞳を覗けば、先程と同じく必死の色が浮かんでいる。
「いくぞ」
 宣言した御剣がポリポリと小気味良い音をさせながらポッキーを噛み砕いていく。その分だけ近くなる距離に慌てながらも、このままじゃ負ける、という 図太いんだかパニックになってるんだか分からないことを考えて、狼も反対側からポッキーを削っていく。 半分ほど進んだところで、御剣が目を閉じたのが見えた。
(え、ちょ、うわ、まじこれヤバくねぇか)
 このままいったらキスしちまうけど、とやっとそこまで考えが追いついて、途端に混乱する。まるでさっきまで呑んでいた酒の酔いが 一気に襲って来たように頭がぐるぐるになった狼が、訳も分からないままに、がり、と強く噛み砕いてしまった勢いでポッキーがその口から離れた。 片側はまだ御剣の唇に残っている。
あ、ゲーム負けちまった……と思うのと同時に、ポッキーを咥えたまま御剣の口元がふるふると小刻みに震えているのに気付く。 口許に残ったポッキーを食べずに手で折ってしまったあと、きゅっと寄せた眉の下の瞳が狼を睨んだ。
「なぜ、離すのだ……!」
「え、いや、なぜって言われても」
 なぜか怒っている御剣に狼はたじろいでしまう。しかも御剣の握られた拳がふるふると震えているから、まさか殴られやしないかとヒヤヒヤする。
「アンタの勝ち、だろ? なんで怒るんだよ」
「勝負など……!」
 どうでもいい、とまるで吐き捨てるように言った御剣の顔は、さっきの何倍も赤かった。 そんな御剣を見たら、いくら混乱している頭でも分からないはずがないし、想い人にそんな可愛い迫り方をされて、無視できるわけもない。
 狼は御剣の手に握られていた、短くなったポッキーをもう一度御剣の唇に押し付ける。 躊躇いながらもそれを咥えた御剣が、窺うように狼を見つめてくるのが堪らなかった。ついさっきまでは胸を痛めていたその表情が、 今は同じところに甘い疼きとなって染みてくる。こんなに幸せなどんでん返しは他にない。
「今度は、絶対負けねぇ」
 言ってすぐに反対側にかじりついた狼が、一気に距離を縮めて、もともと短くなっていたそれにはすぐに限界がくる。 最後のひとくちを残して、吐息が重なる距離まで近づいた狼が確認するように一度動きを止めると、御剣はゆっくりと目を閉じた。

「イタダキマス」

 勘違いで作り上げていた『おあずけ』の時間が長かった分、勢いは止められそうにない。
 喰らい尽くしてやるから、覚悟しろよ。



ロウミツポッキーゲーム / 柘榴さまより!



end // reset
柘榴さん宅の絵チャにお邪魔した際、
絵がまったく描けない自分に不甲斐ない思いをしながらも、
柘榴さんのロウミツ絵見たいー! ロウミツ描いてくれたら文付けます!
とおねだりしたら、こんな素敵なロウミツ絵をゲット出来ちゃいました(*^^)v
それにしても、なにかリクを、と言われて咄嗟に「ポッキーゲーム!」とか言った私は
自分が文付けることを全然考えてませんでした……(汗)
そのせいでめちゃくちゃ無理やり感が漂うシロモノですみませんー!
私のSSの中のポッキーどんだけ長ぇんだよ、って自分で突っ込んどきます(笑)
柘榴さんのちょうカッコイイ師父と美しい御剣に免じて許してやってください!!
改めまして、柘榴さん、素晴らしい絵をどうもありがとうございましたー!!