栗花落 5


--side A--



 金曜日、二十一時十分。
 閉店時間を迎えた店は静かだ。
 いつもだったら、さっさと片付けを終わらせて家路を急ぐのだけれど、今日は急ぐ気にはなれなくて、ダラダラと売れ残ってしまったケーキをショウケースから取り出していた。
 先程私が王子様に勧めた、他の店ではあまり見ないコーヒークリームのケーキを取り出しながら、閉店間際に来店したふたりを思い出す。
 次に彼らがこの店に来た時にも、私はきっと紅茶のケーキとコーヒーのケーキをひとつずつ箱に詰めるだろう。
 だってそれはあのふたりにとても良く似合っているし、それに。
 王子様の反応で、私は余計なことをしてしまったのではと不安になったけれど。
 その後見た光景は、その罪悪感を拭い去って余りあるものだったから。

 きっと王子様は気付いていない。
 仮面の彼は傘を傾けて、道行く人からはふたりを隠したけれど。
 店の中にいた私にはその様子がこれでもかってくらい良く見えていたってこと。
 仮面のあの人は分かっててそうしたのね。
 私に、大丈夫だって伝えるために。

 お店のシャッターを閉めるために表へ出ると、雨は止んでいた。
 私はいつもどおりにシャッターを下ろしながら、傘のいらなくなった空を見上げて、思った。

 あのふたりが家に着くまでは、雨が降り続いていたならいい。
 優しく包み込むような、雨が。


end
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2009.6.17 up
15300Hit,椿野凛さまからゴドミツのリクエストを頂きました〜。
シチュはお任せ、ということでしたので、
ちょっとこれまで書いたことのない第三者視点のゴドミツにしてみました。
新鮮で、楽しかったです!
タイトルの『栗花落(ついり)』は梅雨入りのことです。たまには季節ネタで。
椿野さま、リクエストありがとうございました!