幸せのありか 2

「御剣検事、誕生日おめでとう!」

 成歩堂法律事務所のドアを開けた途端、クラッカーの音と共に聞こえた真宵と春美の声に、御剣はびっくりして目をパチパチと瞬かせた。

 動かない御剣を部屋の中に押し込むように、ゴドーが後ろから入ってくると、 御剣のポカンとした表情を見ておもしろそうに笑った。

「クッ……そう固まってたんじゃお嬢ちゃん達に失礼だぜ。『おめでとう』には『ありがとう』だろ?」
「ム……あ、ありがとう」

 ゴドーに言われてやっと言葉を返した御剣に、真宵はにっこりと笑顔になって、ありがとうが上手になりましたね、と言った。 春美も隣でニコニコと笑っている。
 後ろにいた成歩堂もやはり笑顔でおめでとうと声を掛けて、ソファをひとつずらして作った『お誕生日席』に御剣を案内した。

「ありがとう、成歩堂。……私は、ここなのか?」
「当たり前だろ? 今日の主役なんだから」

 ひとつだけ特別に作られた席に戸惑いながら座り、そわそわと落ち着かない御剣に成歩堂が苦笑をこぼしていると、 事務所のドアが思い切りよく開いた。

「遅れちまったぁ。もうやってるかぁ?」
「矢張! 遅いよお前。主役待たせてどうするんだ」

 わりぃわりぃと、まったく悪びれない様子でさっさと席に着いた矢張に成歩堂は溜め息をついた。

「よう御剣。誕生日おめでとさん」
「ムぅ……ありがとう。キミも呼ばれていたのか」

 そのまま世間話へと突入しそうな矢張を、遅れて来て寛いでないで準備を手伝えよ、と成歩堂が無理矢理立たせる。 矢張は明らかに不満げに顔をしかめた。

「なんだよぉ。メイちゃんと刑事のおっさんだってまだ来てないじゃんか。ゆっくりしようぜぇ」
「あの二人は仕事なの。もう少し遅くなるみたいだから先に始めててくれってさ。」

 それでもブツブツ文句をたれる矢張を引きずって成歩堂が給湯室へと消えるのを見送った御剣は、 メイと糸鋸刑事もくるのか、とぼんやり思った。
 こんなにたくさんの人間に祝ってもらう誕生日は初めてだ。 なんだか気恥ずかしくなって、ますます落ち着かない気持ちになった。


 テーブルが料理やら酒やらで埋めつくされて、さぁ始めようというころに糸鋸と冥が到着した。

「遅くなってごめんなさい、レイジ。バカげた雑務すらまともにこなせないヒゲがいたものだから」
「……あいすまねッス」

 二人はまず御剣の傍に行き、それぞれにお祝いの言葉を口にした。 

 冥はシンプルにおめでとうと言っただけだったが、その顔には滅多に見る事の出来ない優しい笑みが浮かんでいたし、 糸鋸にいたっては御剣検事の誕生日を自分が祝えるなんて、と感激の涙すら浮かべていて、 ついには今まで御剣と扱った事件の思い出話までし始めたため、冥に思い切りムチをお見舞いされるハメになった。

「皆揃った事だし、始めようか」

 成歩堂が声を掛けて、皆に飲み物を配ると、私が乾杯する! と、真宵がグラスを持ち上げた。

「皆さん、準備はいいですか? それでは、我らが天才検事、御剣怜侍さんの生まれた日を祝って! かんぱーい!」

 それぞれにグラスを鳴らしながら、皆が御剣におめでとうと声をかける。 御剣は律義に全員とグラスを合わせたあと、ちびりとビールを飲んだ。

「おいおい御剣ぃ。今日の主役がそんなしょっぺー飲み方してんじゃねぇよ。そのくらい一気にいきやがれ!」

 矢張はそう言うと席を立ち、御剣の口に無理矢理グラスを傾けた。 皆があっけにとられて固まる中、御剣はいきなりのことにムガっとおかしな音をたてながら、 必死に矢張を引きはがそうとするが、どうしてもグラスの中身をこぼさないよう気を遣ってしまい、 結局むせながら全て飲んでしまった。

「み、御剣……大丈夫か?」

 成歩堂が恐る恐る声を掛けると、しばらく咳き込んでいた御剣は涙目で顔を上げる。

「ゲホッ……この、馬鹿者! 何を考えてるんだ!」

「このくらいしねぇとつまんねぇよ。よし! 次は成歩堂だ!」

 言うが早いか矢張はまだ開けていなかった缶ビールの口を開けて、御剣の背中を叩いていた成歩堂に襲い掛かった。



 非常に優秀なペースメーカーのおかげで、成歩堂法律事務所は早々に酔っ払いの巣窟と化した。
 矢張は冥や真宵にまで酒を勧め、唯一シラフの春美も皆の勢いについて行っているあたり、最強かもしれなかった。

 ゴドーも例外なく矢張に飲まされていたが、元々の酒の強さもあって正体をなくすほどではなかった。

 改めて見ると酷いありさまだ。
 御剣も酒には強い方なのか、派手に酔うということもなく静かに座って飲んでいるが、頬は赤く染まっているし、 目許もトロンとして焦点を結んでいない。
 その御剣の腰に抱き着くように腕を巻き付けて眠っているのが、矢張に一番の標的にされた成歩堂だ。ゴドーとしてはどうしてそんな状態になったのか是非とも問い詰めたいところだったが、今のところ実害がないので放って置いている。

 その反対側では全ての元凶である矢張が狩魔冥に抱き着こうとして、いつもの十倍は凶暴な冥のムチの的にされているし、 糸鋸は御剣との思い出を語りながら大声で泣いていて、その傍らで話を聞いているんだかいないんだか、 真宵と春美がきゃあきゃあとはやし立てていた。

 周りの様子を見遣ってゴドーは思案する。

 御剣がいつになく上機嫌で楽しそうにしているものだから、深酒を黙認してしまったが、 明日も早くから仕事があるのは知っている。そろそろ連れて帰ったほうが良さそうだが、他の面々はどうしたものか。
 男どもは放って帰ってかまわないだろうが、女性陣はちゃんと送ってやらなければいけないだろうと思い、 冥をつかまえてこの後どうするのか聞いてみると、今日は真宵の部屋に泊まりに行くのだという。
 春美ももちろん一緒だということだから、三人まとめてタクシーに乗せてしまおう、 とそこまで考えてから御剣に声を掛けると、僅かに残念そうな顔をしながらゴドーを見上げた。
 思った以上に酔っているのだろうか。こんなに素直に顔に出す御剣はかなり珍しい。

「そんなに成歩堂に抱き着かれたままでいたいのか?」

 ニヤリと笑いながら言ってやると、慌てたように、そんなわけないだろう! と返ってきた。 そういう反応をするから、からかいたくなるのだと御剣はいつか気付くだろうか。

「クッ……しかたねぇな。家に帰ったら俺が代わりに抱き着いてやるさ。」

 御剣にだけ聞こえるように耳元で囁くと、もともと赤かった顔が更に真っ赤になってゴドーの笑みを深くした。

「……結構だッ!」
「そうか? そりゃあ残念だな。」

 それ以上からかうことはしないで、ゴドーは手を伸ばして御剣の腰に巻き付いている成歩堂の腕を解きにかかった。 それに気が付いたのか、成歩堂が目を開けてもぞもぞと起き出した。

「……みつるぎ……もう帰るの?」

 明らかに寝ぼけている声の成歩堂に、明日も早いからな、と返したのはゴドーだった。

「そっかぁ。忙しいのに無理させてごめんな。ありがとう……おやすみ……」

 それだけ言うと耐えかねたようにバタリと床に突っ伏してまた眠ってしまった。 祝われる立場なのにお礼を言われてしまって、御剣はなんとも言えない複雑な顔をしたが、すぐに笑顔を浮かべると、 成歩堂の頬を優しく撫でて、ありがとう、と呟いた。



 女性陣をタクシーに乗せてから、もう一台タクシーを捕まえて御剣とふたりで乗り込む。
 家に着くまで御剣は黙ったままで、けれど相変わらず機嫌は良さそうだったので、ゴドーも特に話し掛けることはせず、 窓の外を眺めていた。

 部屋に着いた頃には御剣はかなり眠そうだったが、シャワーを浴びるというので着替えを用意してやった。
 更にゴドーは、シャワールームから出てきた御剣に水の入ったグラスを渡して、肩に掛かっているタオルを取ると、 ポタポタと水がしたたっている髪を優しく拭いた。
 しばらく無言でされるがままになっていた御剣が小さな声で、ありがとう、と呟いた。

「今日一日でずいぶん言った言葉だな。……今日は楽しかったかい?」
「楽しかった、というよりは……嬉しかった、のだと思う」

 自分の気持ちを確認するかのようにゆっくり話す御剣に、あっけに取られる。 こんな風に自分の心を語るのが一番苦手なはずの人間が、今日は本当にどうしたのか。 酔っているというだけでは説明出来ない気がして、静かに続きを促した。

「……成歩堂達がおめでとうと言う時の顔も声も、すごく楽しそうで……父を、思い出した」
「……そうか」
「いつも忙しくしていた父が、私の誕生日だけは絶対に早く帰ってきた。 私は幼かったが、父に無理をさせていることは分かって、申し訳なくて……、 自分は誕生日なんて気にしないから、無理しないでいいと言ったのだ。そうしたら父は、お父さんがお祝いしたいんだよって。 怜恃の生まれた日を祝えるのが嬉しくて楽しいんだから、無理なんかじゃないと言って笑ったのだ。 その笑顔が本当に楽しそうで、私はとても嬉しかった」
「……成歩堂達も、同じ顔で笑ってたか。」

 こくりと頷く姿がまるで本当の子供みたいに見えて、ゴドーは目の前にある御剣の額に軽く触れるだけのキスを落とした。
 御剣は神乃木の行動に文句を言うでもなく、ただ間近にあるゴドーの顔を見つめて、言葉を続けた。

「私の誕生日を祝うのが楽しいと、そんなふうに思ってくれる人間が今でもいるのだと。 そう思ったらなんだか胸がくすぐったくなって、無性に笑いたくなった。……それは嬉しいという事だろう?」
「あぁ、そうだな。……よかったな」
「…………何をニヤニヤしているのだ。私がこんなことを考えるのはおかしいか?」
「そういうわけじゃない。同じことさ。俺はボウヤが嬉しいと楽しいんだ。ボウヤが幸せなら俺だって幸せだ。 それが、好きってことだろう?」

 ゴドーがそう言って御剣の頭を撫でると、御剣は困ったように眉を下げた。なんと返していいかわからないのだろう。 目を泳がせて言葉を探している御剣をもっと困らせて反応を楽しむのも悪くない。 が、それでは早く切り上げて帰ってきた意味がまるでなくなってしまいそうだったので、 ゴドーは楽しい遊びは諦めて、御剣を寝室へ向かわせた。

「俺はシャワー浴びてくるから、先に寝てな。明日起きられなくなっちまうぜ」
「ム……まるで子供扱いだな。寝過ごしたのはキサマのほうだろう」
「クッ……間に合ったんだからいいだろう。ボウヤの寝癖も直してやったし」

 途端に眉間に皺をよせて黙り込む御剣をベッドに押し込んで、布団を被せる。 不機嫌な顔の御剣は、それでもやはり眠かったのだろう。早く風呂に行ってこい、と呟くと静かに目を閉じた。



 シャワーを浴びて寝室に戻ると、ゴドーは眠っている御剣を起こさないように、極力音を立てないでベッドに潜り込んだ。

 「かみのぎ……」

 いきなり掛けられた声に思わずびくりとしてしまった。眠っていると思っていた御剣が薄く目を開いてこちらを見ている。

「どうした。眠れないのか?」

   御剣の頬に手を滑らせながら言うと、御剣は少しためらうように目を伏せてから、ゆっくりと言葉を紡いだ。

「先程の話だが……私だって、あなたが楽しければ嬉しいぞ。……同じ、だ」

「……それを言うために起きてたのか?」
「あぁ。……もう、寝る」

 かなり眠かったのだろう、目を閉じた御剣からはすぐに寝息が聞こえてきた。


 …………やられた。

   殺し文句だと分かってるのだろうか。いや、分かってないんだろうな。だからこそタチが悪いのだ。
 御剣の言った通りだ。胸がくすぐったくて、顔が勝手に笑みの形を作る。この感情を、嬉しいと言うのだろう。

 御剣と恋人という関係になってからも、なる前だって、はっきりと好きだと言われたことはなかった。 ただ、俺のことが好きかと聞けば真っ赤になって嫌いではないとそっぽを向いたり、ハグもキスもその先だって、 本気で嫌がることはなかったから、それで納得していた。

 照れているのか悔しいのか、言葉にはしたがらないかわいい恋人の気持ちは、ちゃんと分かっているつもりだった、けれど。 やはり、言葉で示されるのは格段に違うらしい。自分でも驚くほどに喜んでいることに戸惑いさえ覚えた。

 今まではたいして気にしていなかったのだが、こんな気分が味わえるとは。 今度ははっきり『好き』だと言わせてみたくなってしまった。

 すやすや眠る御剣の顔を眺めながら、ゴドーはどうやって御剣に好きだと言わせようかと真剣に考えていた。

 
*  *  *


 次の朝、御剣は少しだるそうにしながらも時間通りに起きてゴドーの入れたコーヒーを飲み、 通常の出勤時間よりもかなり早く仕事に行った。
 そして帰りは例によって午前様だった。

 日付が変わった今日は御剣の誕生日当日だったけれど、おめでとうなんて言う間もなく御剣はベッドに入って寝てしまった。
 さすがに疲れたのだろう。小さな寝息をたてて眠る御剣の顔色はあまりよくない。
 御剣は仕事を完璧にこなすためならいくらでも無理をする。それはもう病気と言っても良いくらいに。
 それこそ自分の体のことでさえ眼中にないのだ。今日が誕生日なんてことは覚えてすらいないかもしれなかった。

 御剣のそんな悪い癖はゴドーが何を言ったとしても変わらないだろう。
 もちろんゴドーは御剣のそんな不器用さも愛しいと思っているし、自分が少しでも支えてやれたら良いとも思う。
 こんな日にはゆっくり寝かせてやるのが一番いいのだと分かっているが。
 同じ部屋で暮らしているというのに、たった一言が伝えられないということがひどくもどかしいと思うのも事実だった。

 とはいえ、誕生日を一緒に過ごせなかったからといって拗ねるほど女々しくはない。
 ゴドーは物足りない気持ちを隅に押しやって、小さな声で、おめでとう、と呟いた。



「ゴドーさん。今日はもうあがっちゃっていいですよ。もうそろそろ閉めちゃいますから」

 成歩堂にそう声をかけられて、コーヒーを飲みながら昨夜のことを思い返していたゴドーは顔を上げた。
 時刻は午後五時。いつもよりも少し早い店じまいにゴドーが首を傾げると、成歩堂は困ったように笑った。

「今日はもうお客さん来ないだろうし」

 今日の空は雨。確かに依頼人など来そうもない。
 取り急ぎ片付けなければならない案件もないし、帰っても問題はないだろう。

 成歩堂の言葉に従って事務所をでたゴドーは、空を見上げて溜め息をひとつ吐いた。

   ――さて、どうするか。

 御剣は今日も遅くなるだろうし、自分ひとりのために夕飯を作るのはなんだか気が乗らない。
 かといってこの雨の中、どこかへ行く気も起きなくて、ゴドーは途方に暮れた。

 とりあえず歩き出してはみたものの、考える事すら面倒に感じる事実に失笑せざるをえない。
 自分で思っていたよりもずっと、ゴドーは女々しかったようだ。
 何をする気にもならないのは御剣がいないからで、自分はまさしく拗ねているのだと自覚しても、真宵や春美のように、 どうしても誕生日を祝いたいんだとわがままを言うことは出来ない。
 おとなしく御剣の帰りを待っているしかないだろう。



 迷った末にやっぱり夕飯の食材を二人分買い込んで、マンションに帰った。
 部屋の前まで来て鍵を差し込んだ右手に違和感を感じる。
 思っていた方向には回らない鍵を抜いて、首を傾げながらもドアを開けた。
 今朝、閉め忘れてしまっただろうかと、朝の自分の行動を思い出しながら靴を脱いでいると、奥の扉が静かに開いた。

 靴を脱ごうとした姿勢のまま固まって、そこにいる人物をまじまじと見つめてしまった。
 そこには居心地悪そうにゴドーの視線から目を逸らす御剣がいた。

 「いつまでそこにいるつもりだ。早く靴を脱げ」

 目を逸らしたまま言う御剣の声に我に返って、ゴドーは靴を脱ぐと御剣に近づいた。

「……仕事は?」
「終わったからここにいるに決まってるだろう」
 
 こちらを見ようとしない御剣に焦れて、ゴドーは御剣の頬に手をかけて上向かせた。
 戸惑っているように眉を下げたその顔を見たら、もうたまらなくなった。
 ゴドーは堪えきれないようにに腕を伸ばして、御剣を正面から緩く抱いた。
 御剣はピクリと肩を揺らしたけれど、ゴドーのいつもと少し違う様子に、黙ってされるがままになっていた。


  「誕生日、おめでとう」

 御剣を抱いたまま、ゴドーは言った。
 どうしても今日、伝えたかった言葉を言うことが出来たことに、 どうしようもなく湧き上がる喜びを自分の中でもてあましながら、それでも御剣を抱く腕は優しいままに。

 御剣はおずおずとゴドーの背に腕をまわして、小さくありがとう、と呟いた。



「それにしても随分早いじゃねえか」

 キッチンで夕飯を作りながらリビングにいる御剣に声を掛けると、御剣は少し言いづらそうに口篭ったあと、 手伝ってもらったのだ、と小さな声で言った。

 その言葉に思わず手を止めて目を瞠ってしまう。
 御剣が、人に仕事を手伝ってくれと頼むところなど、想像も出来なかった。

「優先順位をつけろとキサマが言ったんだろう」

 言葉を失っているゴドーに焦れたように御剣が言った。
 それは、人に仕事を手伝ってもらってでも、ゴドーと一緒に誕生日を過ごしたかったと、そういうことだろうか。
 いや、それ以外にないだろう。
 このプライドの高い男が、一体どんな顔で頼んだのか。
 考えたら、無意識に口許が笑っていたらしい。御剣に、ニヤニヤするなと怒鳴られた。

 でも、これがニヤニヤせずにいられるだろうか。 こんな可愛いことをしてくれる恋人を前にして、無表情でいろと言うのは無理な話だ。

「ボウヤ、ちょっとこっちに来てくれないか」
「なんだ?」
「いいから、早く」

 大いに怪しみながらキッチンに入ってきた御剣を捕まえてキスをひとつ。

 途端に一歩後ずさる御剣に苦笑して、ゴドーは手を離した。

「まずは、食事だ。お楽しみはそれからだが、少しだけ、味見がしたくなってな」

 そう言ってニヤリと笑うゴドーに、御剣は赤くなった頬を隠すことも忘れて口をパクパクさせている。

「き……キサマっ!」
「もう少しだから、おとなしく待ってろよ。俺の可愛いコネコちゃん」
「〜〜〜っ!!」

 今度こそ爆発するんじゃないかというくらいに真っ赤になって、 御剣はドカドカと盛大な足音をたてながらリビングのソファへと戻っていった。
 ソファに置いてあったクッションを思い切りゴドーに向かって投げつけると、それきりゴドーに背を向けてしまう。

 ゴドーはクッ……と喉を鳴らすと、まな板の上のなすに向き直った。
 いとしい恋人の機嫌を直すためにも早く料理を完成させてしまわなければ。
 御剣の好きな和食でご機嫌を取ったら、そのあとは大事な誕生日プレゼントだ。

 
 ……プレゼントは俺だと言ったら、あの可愛いコネコはまた真っ赤になって怒るのだろうか。



end
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